「ソージョー効果」はうま味の話によく出てくるので、耳にしたことがあると思う。うま味の相乗効果とは、前回説明したグルタミン酸などのアミノ酸グループのうま味成分と、イノシン酸やグアニル酸のような核酸グループのうま味成分が舌の上で偶然に出会う時、うま味の強さが何倍にもなる効果のことである。出会い系の意気投合である。
2者を足すだけでうま味が格段に増すというのは、単純であるがものすごい効果をもたらす。次元の違う味わいを作り出す。
油脂や糖を多用しなかった日本の食文化は、格段においしいものが足りなかった。そんな中でうま味は唯一のおいしさであった。日本人の食の満足感はうま味の相乗効果によって支えられてきたと言って良い。
同じグループのうま味が出会っても相乗効果は生じない。同じグループのうま味が足された分だけうま味は増加するが、足し算にすぎない。これは相乗効果ではなくて相加効果と呼ぶ。
椎茸と昆布では、グアニル酸とグルタミン酸という異なるグループが出会うので格段にうま味が増す。煮干しや鰹節、焼き干しなどのグループと昆布の組み合わせもイノシン酸とグルタミン酸という異種のうま味の出会いである。
単独ではかすかにうま味を感じる程度のイノシン酸でもグルタミン酸の溶液を混ぜると、強烈なうま味が生じる。これには驚く。順序や濃度は逆でも同じことが起こる。舌の上のうま味センサーで両者が出会いさえすればいいのである。
うま味の相乗効果を発見したのは日本人の科学者。東京大学から後にヤマサ醤油に移った国中明博士である。博士は、池田菊苗門下のうま味の研究者でイノシン酸とグルタミン酸のうま味を比較する実験を行っていた。1950年代のことである。
イノシン酸を味わった後で、口をすすがないで続いてグルタミン酸を口にしたら、爆発的にうま味が強かったのに驚いたのが発見のきっかけである。通常、異なった液の味を比べる場合、1回ごとに水などで口をすすぐ。それを忘れて、意図せずに両者を連続して口に含んだのが発見につながった。
「突然、予想もしない強いうま味が口の中に広がった」
国中博士は後年対談で語っている。大発見の瞬間である。
出典:(一社)日本ソムリエ協会「Sommelier.jp」